今朝の新聞をご覧になっただろうか?
朝日新聞の記事だが、姉歯物件のひとつを「限界耐力計算」で再計算したところ、「許容応力度計算」では耐震強度が0.85しかないとされた物件が、1.0を超える結果が出たということである。
詳しくはこちらを参照。
新宿の姉歯物件、強度不足が一転「安全」 新構造計算で -asahi.com-
で、個人的な感想では、それ自体はさほど問題ではないと思っている。
限界耐力計算も建築基準法で定められた構造計算方法なのであるし、それで建築確認を受けた建物は、合法建物である。
ただ、姉歯物件は、この限界耐力計算を用いて計算し建築確認を受けていたのではないから、事後に限界耐力計算をして強度が足りていたからといって、設計した建築士は違法建築物をつくっていたという事実から逃れられるわけではない。
非常に理解しにくいが、そういうことなのである。
そもそも、限界耐力計算にしろ避難検証法にしろ、性能規定というのは、緩和の方向に働くものである。
考えても見れば、どんぶり勘定でどんな建築物にも適応するような基準と、建物個別の特徴に合わせて条件設定して設計した結果が同じというほうがおかしな話である。
それが、偶然、姉歯物件を限界耐力計算で再計算したら、ラッキーにもOKになっちゃったと考えるのが正しいといえるだろう。
ただ、呆れてしまうのは、国土交通省のコメント。
全文を引用すると以下のとおりである。
「計算結果が大きく食い違う場合こそ、安全性を判断するためには専門家の助言が必要になるだろう。ただ、元の強度が著しく低い場合は別の計算法で数値が上がったとしても、安全だと判断されるとは限らないのではないか。」
これは明らかに行政の責任放棄といえるのではないだろうか。
限界耐力計算を、正規の計算方法として認めているのは、建築基準法であり国土交通省である。
建築確認において、限界耐力計算で計算した物件には、許容応力度計算で計算した構造計算書などはつけられてないのが当然であり、許容応力度計算でNGならばだめというのならば、限界耐力計算などというのは最初から不要だったものといえるのではないか?
そもそも、米国の圧力に負けて導入したようなものだから、まともな検証などしていないのかもしれないが・・・。
それにしても、自分が許可していた計算方法に不備があるのではないかという疑義が出てきたときに、反省するどころか、自ら批判しているとはどういうことか?
やはり、”限界耐力計算はまずかったです”なんて話になってきたときに、そこで生まれてくる”既存不適格建築物”の問題にはどう対処するつもりなのか?
例によって、建築確認を受けて、検査済証が交付されている物件ならば、その後”危険だ”ということが判明しても、野放しでほうっておくのか?
(現在の建築行政は、違法建築物でも野放しにしているので呆れるばかりなのだが・・・。)
僕には、このような行政の無責任な姿勢、法を厳格に運用する気がない姿勢が、業界全体のモラルハザードを引き起こしているとしか見えない。
現在、今回のような事件が起きないように、様々な規制強化が検討されている。
しかし、まずは行政が「法を厳格に運用する」「違法建築は許さない」という毅然とした態度を示さない限り、脱法行為はなくならないのではないか。
なぜならば「自分だけは得をして儲けたい」と考える人間は必ずいるからである。