伝統工法が地震に強いということが見直されてきました。
従来の耐震診断では地震に弱いと判定されてきた、太い柱と梁で作る伝統工法の木造家屋が見直されている。大地震で倒壊が少なかったとの調査結果もあり・・・・(2004.12.07付 朝日新聞)
伝統工法の家屋は、太い柱と梁を組み合わせ、石の上に柱を乗せた玉石基礎などで揺れを逃すのが特徴(注1)。多くの耐震診断基準は、硬い壁と筋違で揺れに対抗する在来軸組工法向きに作られ、壁の多さなどが判断基準になっており、ふすまや障子の多い伝統工法は低めに評価されがちだった。
しかし、00年の鳥取県西部地震で阪神大震災と比べ家屋の倒壊が少なかったのは、伝統工法の家屋が多かったためとの分析を京都大学防災研究所がまとめるなど、伝統工法の強さが再評価され始めた。新潟県中越地震で現地入りした愛知県建築指導課の鈴木雄二さんも「ほとんど無傷で残っている伝統工法の建物もあった」と話す。(ここまで新聞記事を抜粋)
(注1)現在の建築基準法では、基本的に基礎は鉄筋コンクリートの布基礎になります。
伝統工法が見直されてきていることについて、個人的に嬉しく思います。
阪神大震災において、木造家屋の倒壊が大きく取り扱われ、在来木造は地震に弱いというイメージが浸透してしまいましたが、阪神大震災時に倒壊した家屋の多くは、俗に言う不良ストックであり、壊れるべくして壊れた建物が多かったと思います。建築物は、基本的に一品生産のため、まず出来上がった時点でその差が出ます。また、維持管理のしかたによっても強度が著しく変わってきます(木造の場合は特に腐朽が問題)。地震に強い建物とは、構造の違いに関係なく、適正な設計施工がされ維持管理がしっかりとなされた建物といえるでしょう。また、違う側面から見ると、ハウスメーカーなどの自社の商品の優位性を強調した宣伝のため、消費者がメディアに翻弄されてしまっているということもあります。
ここで気をつけなければいけないのは、一般に言う在来工法と伝統工法では、木造でもまったく別物であるということです。
伝統工法とは、新聞にも書かれている通り、太い柱と梁を使用し、金物を使わないで貫や差鴨居(建具の上にある木材で、伝統工法の場合、梁と同じくらいの大きさの木を使います)で補強します。地震の揺れに対しては、それに対抗するのでなく、それぞれの部材の接合部が微妙にずれることにより、揺れを逃がします。いわば、柔の構造です(柔構造の考え方は高層ビルの構造設計などに用いられています。高層ビルの場合部材の接合部がずれるということはなく、構造解析の仕方はまったく違いますが、揺れに対する根本の考え方は同じであるといえるでしょう)。
一方、現在の在来工法は建物の剛性をなるべく高くする方向にあります(剛な構造にする)。方法としては、筋違や構造用合板と金物を使って補強をします。そうすることによって、軸組み(壁と解釈してもあまり問題ありません)の強さを大きくするのですが、壁が強くなると、地震などがおきたときに柱が引き抜かれる力(工務店などからはN値と説明されると思います)が大きくなるため、ホールダウン金物など、大きな引き抜きに耐えられる金物を使うことになります。金物だけをどんどん耐力が大きいものにしても、肝心の柱・梁は大きくしないため、少しの施工不良で、柱の引き裂きなどの深刻な問題が起こりかねません。
また、高温多湿の日本において、構造用合板などの面材で柱・梁を覆ってしまうことは、木材の腐朽に対して良いこととは言えません(この腐れ対策に防腐剤などが使われ、いろいろな問題を引き起こしていますが、その話しは、またいずれ・・・)。
個人的に、日本の木造住宅は、長い年月で培われた伝統工法が一番優れていると思っているため、伝統工法びいきのコメントになってしまいましたが、伝統的な工法が見直されて普及していって欲しいと思っています。
伝統工法で建築する場合、頭を痛めるのが、ライフサイクルの短い住宅と比較した場合どうしても割高になってしまうコストと、腕の良い大工さんの確保でしょう。
これが、なかなか難しい・・・